近年、食物アレルギー領域を中心にアレルゲンコンポーネント(コンポーネント)特異的IgE検査の臨床意義が明らかになってきました。現行の粗抗原に対する特異的IgE検査に加えてコンポーネント特異的IgE検査を実施することで、より精度の高い診断が可能となります。すなわち、粗抗原中の含有量が少ないコンポーネントの特異的IgE測定は臨床的感度の向上、当該アレルゲンに特異的なコンポーネントでは臨床的特異度の向上が期待できます。また、誘発症状の重篤度に関係するコンポーネントも明らかになり、誘発症状の重症度を推定することが可能となります。
- 臨床的感度の上昇
生体防御タンパク質‐10(PR-10)は、カバノキ科の花粉‐食物アレルギー症候群(PFAS)の責任抗原となりますが、果実、種子の粗抗原中の含有量が低く、果実などの粗抗原特異的IgE検査が陰性になることがあります。そのため、新鮮な果実などによるプリック-プリックテストが有用と言われていますが、コンポーネント特異的IgE検査では各々のPR-10(Gly m 4、Mal d 1、Pru p 1、Act d 8など)特異的IgE検査が陽性となり有用となります。また、成人の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの診断において、小麦粗抗原またはグルテン特異的IgE検査が陰性となる場合が少なくないですが、Tri a 19(ω-5グリアジン)特異的IgEは本症に対する臨床感度が80%と高いです。
- 臨床的特異度の上昇
穀類、豆類、ナッツ類の粗抗原特異的IgE検査は、臨床的感度は90%以上と良好ですが、特異度は50%程度と低く、この傾向は皮膚試験でも同様です。当該アレルゲンに特異性が高く、症状誘発との関係が明らかなものを選べば特異的IgE検査が有用になります。このようなコンポーネント特異的IgE検査として、ラテックス(Hev b 6.02)、卵白(オボムコイド:Gal d 1)、小麦(ω-5グリアジン)およびピーナッツ(Ara h 2)などが既に日常診療で使用されています。これらコンポーネント特異的IgE検査と従来の粗抗原による検査を組み合わせて解釈することにより、食物経口負荷試験を実施する患児の数を減少させることが可能となります。ω-5グリアジン特異的IgE検査は、小麦除去食療法中の経過観察において、臨床経過を粗抗原特異的IgEに比べてよりよく反映し、その陰性化が耐性または減感作状態の目安になります。
- 誘発症状の推定
PR-10は、熱や消化酵素に耐性でないので全身症状に関連することは少なく、プロフィリンやCross-reactive carbohydrate determinants(CCD)も、特異的IgE検査陽性でも症状を起す可能性が低いです。ただし、大豆を症状誘発の原因とするPFASでは、大豆由来のPR-10であるGly m 4が関与していると考えられていますが、重篤な誘発症状を起こすことが知られています。一方、脂質輸送タンパク質(LTP)、貯蔵タンパク質(2Sアルブミン、7Sグロブリン、11Sグロブリン、プロラミンなど)、モモのジベレリン調整タンパク(GRP)などの感作例は、比較的重篤な誘発症状を起こすことが知られているので、これらに対して特異的IgE検査が陽性の場合、経口負荷試験において注意を要します。