第17回(2020年度)日本アレルギー学会学術大会賞受賞者
第17回日本アレルギー学会学術大会賞は、JSA/WAO Joint Congress 2020(第69回学術大会)において発表された研究業績を対象として、学会誌および学会ホームページにて公募、応募者8名について、2021年2月9日の学術賞選考委員会にて選考を行い、受賞候補者5名を選出、3月5日の理事会において下記のとおり受賞者を決定しました。
受賞者(敬称略 五十音順)
赤川 翔平(関西医科大学小児科学講座) |
---|
「Decreased butyric acid-producing bacteria in the gut microbiome of children with egg allergy」 |
受賞理由:申請者は、小児の鶏卵アレルギー患者の腸内細菌叢において酪酸産生菌の減少によるdysbiosis が存在していることを世界で初めて明らかにした。また、同一の患者において、末梢血中のリンパ球に占める Treg 割合が減少していることを証明した。これまで、dysbiosis がどのようにアレルギー発症に関与しているかは不明であったが、本研究により、腸管における酪酸産生菌の減少が Treg の減少を招いている可能性が示唆された。本研究は、酪酸産生菌や酪酸を投与するという新たなアレルギー疾患の予防や治療の開発につながる優れた研究であると評価された。 |
織田 好子(神戸大学医学部附属病院皮膚科) |
---|
「Improved FcεRI-mediated basophil reactivities reflect rapid-responses to omalizumab in chronic spontaneous urticaria」 |
受賞理由:申請者は、慢性特発性蕁麻疹(Chronic spontaneous urticaria; CSU)におけるオマリズマブの作用機序に関する研究を行っている。オマリズマブを投与した CSU 患者を対象にオマリズマブ治療前後で FceRI を介した刺激に対する末梢血好塩基球の応答性などを解析し、オマリズマブ治療後に観察される好塩基球の応答性の改善が、オマリズマブの迅速な治療効果と関連していることを見出した。CSU におけるオマリズマブの治療効果における重要な作用メカニズムを同定したことが高く評価された。 |
菅野 峻史(東京薬科大学免疫学教室) |
---|
「Latent 1,3-β-D-glucan acts as an adjuvant for allergen-specific IgE production induced by Japanese cedar pollen exposure」 |
受賞理由:申請者は、スギ花粉症の発症には、アレルゲン感作だけでなく、なんらかの免疫賦活作用が必要であると考え、スギ花粉に含まれる多糖で病原体関連分子パターンの 1 種として知られるβ-glucan (BG)に着目し研究を行った。その結果、スギ花粉の外壁に含まれる BG が、鼻汁との接触により花粉から表出し、Dectin-1 を介して樹状細胞などの自然免疫系の細胞を活性化することにより、抗原特異的な免疫応答を刺激して特異抗体産生を高めることを明らかにした。将来の花粉症治療に有益な研究として高く評価された。 |
木戸口 正典(福井大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科) |
---|
「Association between the NOS2 pentanucleotide repeat polymorphism and risk of postoperative recurrence of chronic rhinosinusitis with nasal polyps in a Japanese population」 |
受賞理由:申請者は、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者および好酸球性副鼻腔炎患者において,鼻腔で一酸化窒素(nitric oxide, NO)を合成する一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase 2, NOS2)の遺伝子多型の反復配列の回数が少ないほど鼻茸における NOS2 遺伝子発現量が増加していたことを見いだした。反復配列の回数を,11 回以下を S 型,12 回以上を L 型と分類したところ,多施設前向きコホートにおいて S/S 型は S/L 型や L/L 型と比較して高い術後再発率であることを報告し.NOS2 反復配列多型は鼻茸における NOS2 発現量と関連しており,術後再発に影響を与える遺伝的要因となる可能性を提唱したことが評価された。 |
林 浩昭(Harvard Medical School, Division of Allergy and Clinical Immunology) |
---|
「Omalizumab はアスピリン喘息にアスピリン(NSAIDs)耐性化を誘導する」 |
受賞理由:申請者は、抗 IgE 抗体製剤 Omalizumab のアスピリン喘息(AERD)および NSAIDs 過敏症に対する有効性を二重盲検ランダム化交差比較試験にて検討した。その結果、Omalizumab の3ヶ月の投与により、アスピリン全身負荷試験時の尿中 LTE4 レベルに有意な減少を認めた。さらに Omalizumab の投与により 60%以上の症例でアスピリン耐性化が誘導されることを見出した。本研究は診療に難渋することの多い AERD および NSAIDs 過敏症の治療に極めて重要な知見を提供し、優れた研究であると評価された。 |